私が駅前の噴水のある通りをあるいていると、寒そうな格好をした十七くらいの女の子が近づいてきた。
「おじさん、あの」

おじさんと言われて、私もそんな歳なんだなと思いながら彼女のほうを見た。
「なにかな?」
「あたしね、お腹がぺこぺこなの何かごちそうになれませんか?」

そんなにみすぼらしい姿をしていなかったが、唇は荒れ、かさかさした肌の少女だった。
何か事情があるのだろう。
「わかった、とにかく、そこのうどん屋にでも行こう。ぼくも昼を食べようと探していたところなんだ」
「あ、ありがとうございます」
その少女の目に生気が宿ったようにみえた。
私の脳裏に「援助交際」という言葉が浮かんだ。

うどん屋は昼時とあって盛況だった。
カウンター席しかなく、入り口付近の空いた席に二人で掛けた。
「あったかい」
そう聞こえた。手がかじかんでいるのか、彼女は手のひらをこすり合わせて「はぁ」と息を吹く。
「なんにする?なんでも言いなよ」
「とりなんば」
「じゃ、ぼくもそうしよう。とりなん、二つ!」
私は厨房の兄さんに注文を伝えた。
「ほい、とりなん二丁入ります」
ものの数分で私たちの前に、熱々のとりなんばが置かれた。
「さ、どうぞ」
「いただきます」
割り箸をパチっと割って、彼女はお辞儀をした。
私も割り箸を取って、七味を振った。
一本ずつ数えるように口に運ぶ少女…愛らしかった。
私は、何から尋ねてよいのか迷った。
何も訊かないほうがよいのかもしれないとも思った。
そう考えながら、うどんをすすり、かしわを頬張った。
肉汁が口内にひろがる。
少女も頬をふくらませて肉を噛んでいる。

家出少女なのかもしれなかった。
所持金を使い果たして、途方に暮れていたのだろう。
当面、私の家で面倒をみてやってもいいとも思った。
老母の介護をしている男の家なら、彼女も警戒をしないだろう。
「泊るところ、あるのか?」
「ううん」
やはり、そうなのだ。
「私の家に来ればいい。年老いた母親が体が不自由で、私一人で介護をしているんだ。一戸建ての家だから、部屋はある」
「いいんですか?」
「いいよ」
「お願いします」

うどん屋を出ると、私たちは家に向かった。
「きみは、高校生だろ?」
「まあ」
「訊かない方がいいのかもしれんが、家出でもしてきたか?」
「ええ、まあ」
うつむいて、そう答えた。
「お金は、もう使い果たしたか?」
「二千円ぐらいは持ってます」
「それは大事に取っておきなさい。帰るときに必要だろうから」
すると彼女は私の腕にすがりついて、頭を寄せてきた。
「おじさん、好き」
とまで言うのだった。
やばい予感がした。